「省エネ基準」

「省エネ基準」は、建物の断熱性能やエネルギー消費量の指標を国が定めたものです。
この基準は1980年に初めて制定され、以降何度か改正が重ねられています。現在の「省エネ基準」は平成25年に改正されたものがベースになっています。それまでの省エネ基準と大きく違う点は、基準そのものよりも、断熱性能と一次エネ消費量の2本立てで判断することが明確に決められたことでした(それまでの省エネ基準は断熱性能のみでした)。その後平成28年に軽微な修正が施され、現在は「平成28年省エネ基準」と呼ばれています。

ちなみに、これまではあくまで「基準」として設けられていただけで適合義務はありませんでしたが、2025年4月より義務化されます。

「性能基準」と「仕様基準」

省エネ判定では、通常「外皮計算」で断熱性能を算出し、その数値をもとに「一次エネルギー計算」を行います。それぞれの計算結果が、一定の基準以下(あるいは以上)である場合に適合と判定されます。これを「性能基準」と呼びます(「標準計算ルート」など、文脈によって呼び方は様々です)。
これらの計算は、慣れていないとなかなかハードルが高く、慣れていてもかなり手間がかかります。このような「性能基準」に対し、複雑な計算をしなくても適否を簡便に判断できるように作られたのが「仕様基準」です(計算が全く不要というわけではありません)。

仕様基準は、建物全体の性能を計算するのではなく、各部位の断熱材の仕様、設備の性能が一定基準以上であれば適合とする判定方法です。部位個別に判断できるので、簡便なだけでなく、例えば外皮計算が終わるまで一次エネ計算に進めない、といった手順がないのもメリットです。

仕様基準で現在判定できる基準は「省エネ基準(H28年省エネ基準)」と「誘導基準(ZEH水準)」の2つのみです。断熱等級には誘導基準より更に高水準の等級7、8がありますが、これらの判定は仕様基準ではできず、標準計算を行う必要があります。

ちなみに、仕様基準は建物全体の断熱性能や一次エネルギー消費量を算出する必要がない反面、外皮性能の「UA値」と、一次エネルギーの「削減率」を示すことはできません(一律の数値をクリアしているとみなされるだけです)。

仕様基準のデメリット

ナイスサポートセンターでも検証を何度か重ねていますが、2022年11月に改正された「仕様基準」、特に「誘導仕様基準」には、明確なデメリットと言えるものが少ない印象です(あくまでも「私見」です)。
計算をしない分、一般的に仕様基準はオーバースペックになりがちと推測されるのですが、検証した限りでは極端なスペックアップは必要なさそうでした。

あえてデメリットを挙げるなら、一次エネ(設備)の仕様基準にあまり自由度がないことでしょうか。例えば適合できる暖房機器や給湯機器がかなり限られます。太陽光発電の加味もできません(そのため、「ZEH水準」は判定できますが、「ZEH」の判定はできません)。そんな場合は、外皮のみ仕様基準、一次エネルギーは標準計算というルートの選択も可能です。

なお、外皮も設備も全て仕様基準で行うルートは判定が簡単というだけでなく、2025年4月以降、建築確認の一部が簡略化されるというメリットもあるため、総合的に判断してください。

「省エネ基準」と「誘導基準」

「省エネ基準」は「平成28年省エネ基準」を指しています。2025年に義務化となる最低限の基準です。「住宅性能表示制度」では、この基準を断熱等級4・一次エネ等級4と定めています。
しかしながら、この省エネ基準は、世界的に見て決して高い水準ではありません。そのためもあってか、ここ数年の補助事業では省エネ基準より高い水準である断熱等級5・一次エネ等級6が求められます。これが「誘導基準」です。
「誘導」というだけあって、国が勧めているのは「省エネ基準」よりも「誘導基準」で、2030年までにはこちらへの適合が義務化される予定です。なお、「誘導基準」は「ZEH水準」とまったく同じものです。

「ゼロエネ」と「ZEH」と「ZEH水準」

文脈にもよりますが、基本的に「ゼロエネ」と「ZEH」と「ZEH水準]は意味が異なります。
「ゼロエネ住宅」は文字通り、エネルギー収支ゼロの住宅の事を言います。再生可能エネルギー(太陽光発電)を含めて一次エネ削減率が100%を超える住宅です。
「ZEH」は「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略(「ネット」は何処へ行ってしまったのか不明です)ですが、「ゼロ・エネルギー」と言いながらも、削減率100%以上にさえなれば「ZEH」というわけではありません。
極論、どんな住宅でも太陽光発電をたくさん載せれば100%を超えて「ゼロエネ」とすることは可能です。ですが、ZEHでは断熱性能と太陽光を含めない場合の一次エネルギー削減量が一定の水準をクリアすることも求めています(断熱性能は各地域区分ごとに定められたUA値以下、一次エネルギー削減率は全地域一律で20%以上)。この水準が「ZEH水準」です。
太陽光で水増しされていない素の性能が「ZEH水準」をクリアした上で、さらに「ゼロエネ」を達成した住宅が「ZEH」というわけです。

「BEI」と「削減率」

「BEI」と「削減率」は、いずれも一次エネルギーの削減率を表す数値です。
まず前提知識として、BEIは「基準を1とした場合の、その建物の一次エネルギー消費量」、削減率は「基準に対するエネルギー削減率」を表します。
BEIは数値が小さいほど、削減率は数値が大きいほど良い性能です。
互いに表しているものは同じで、表現が違うだけです。例えば、BEI=0.85の建物は、削減率15%となります。

「BEI」には2つの数値があります。太陽光発電を除いたBEIと、太陽光発電を含めたBEIです。特に両者を区別する名称はなく、単に「BEI」と言った場合にどちらを指すかは注意が必要です。

「削減率」にも2つの数値があります。太陽光発電を除いた「Ro削減率」と、太陽光発電を含めた「R削減率」です。
一見、BEIと同じに見えるのですが、後者の太陽光を含めた数値では、BEIは「売電分を除く(自家消費のみ)」、R削減率は「売電分を含む」という違いがあります。
基本的に夜間のエネルギー消費は太陽光発電で直接は賄えないため、100%削減はできません。そこで、余剰発電(売電分)も含めて100%削減したとみなすのが、いわゆる「ZEH」です。
(ちなみに、現状の一次エネルギー計算では、蓄電池の効果を加味できません。余剰発電は全て売電分として扱われます。)

実は「削減率」にはもう一つの数値があります。一般的にあまり意識されない数値ですが、「太陽光を含めたBEI(売電分除く)」に対応する削減率がそれです。
「BELS評価書」には、これを含めた3つの削減率が表示されます(当然ながら、太陽光発電がない建物では、この3つの数値は同じになります)。

一次エネルギー計算書に記載されるBEI
BELS評価書に記載される削減率

一般的にクローズアップされる数値はRo削減率とR削減率です。
Ro削減率は、断熱仕様・設備仕様により「エネルギーをどれだけ使わないか」を表す、いわば建物の「素の性能」です。エネルギーを使わずに生活はできませんので、どれほど省エネ性能の高い設備を採用しても、Ro削減率が100%になることはありえません。
一方、R削減率は、前者に「エネルギーをどれだけ作れるか」を足した数値で、太陽光発電を載せれば載せるほど向上します。そのためRo削減率がどんなに低くても、R削減率100%、いわゆる「ゼロエネ住宅」にすることは可能です。ただし、「ZEH」にはなりません。なぜなら、「ZEH」にはRo削減率が20%以上という条件も明確に定義されているからです。

余談・「一次エネ等級5」

省エネ基準の等級は断熱も一次エネも4なのに、誘導基準はなぜ5と6? という疑問を持つ方もいると思います。両方5にした方が分かりやすいのに。
実際のところ、一次エネ等級で削減率10%を求める等級5という基準は、ZEH基準ができる前に既にありました。誘導基準の20%より一段階低い基準で、これはかつての低炭素住宅基準です。この基準は再生可能エネルギーを除いた削減率の決まりが緩く、基本性能が低い住宅でも太陽光さえ載せればクリアできるものでした。この基準は少々緩く、そのためか2022年に低炭素基準は改定され、一次エネ等級5は現在形骸化しています。

「断熱地域区分」

日本は8つの「断熱地域区分」に分かれています(「省エネ地域区分」と呼ばれることもあるようです)。北海道などの1地域から、九州の一部と沖縄の8地域まで、明確に決められています(気候変動の影響で変わることがあり、直近では2020年に改正されました)。

同じ日本の中でも、地域によって気候や気温が大きく異なりますので、住宅に必要な断熱性能やエネルギー消費量は当然変わりますし、エネルギー消費の内容にも差があります。そのため、地域により省エネの基準値は異なっています。
エネルギー消費の内容の差の内訳は、大半が暖房エネルギーです。1地域では消費エネルギー全体の50%近くを暖房が占めていますが、7地域では12%程度に留まります(8地域にいたっては暖房エネルギーをそもそも無視します)。
この違いが、省エネ対策の地域別に見た効果の度合いに影響します。例えば熱交換型換気設備(第一種換気方式にだけ可能な機能です)は、寒冷地では相応の効果がありますが、温暖地ではむしろ逆効果の場合があります(第一種換気は第三種と比べて換気設備自体のエネルギー消費が大きく、温暖地では熱交換の効果がそれ以上に少ないためです)。また、床暖房は比較的エネルギー消費効率が悪いため、暖房の比率が低い7地域に比べて寒冷地に行くほど極端に削減率が低くなります。

ただし、これらはあくまでエネルギー削減率だけを見た場合の話です。生活上の快適性まではエネルギー削減率で測れませんので、採用するもしないもやみくもに決められるものではないでしょう。

外皮

「外皮」とは、建物の内と外の境界面の事です。専門的には「熱的境界」と言います。外皮の部位は主に「屋根・天井・壁(外壁・基礎壁)・外気に接する床・その他の床・土間・開口部(玄関ドア・窓)」です。

  • 屋根
  • 天井

    • 外壁
    • 基礎壁(基礎断熱の場合)
    • 基礎壁(床断熱の場合・
      土間外周の外接側)
    • 基礎壁(床断熱の場合・
      土間外周の床下側)
  • 外気に接する床
  • その他の床
  • 土間

「外気に接する床」は玄関ポーチや屋内駐車場の上にかかっている上階の床、「その他の床」は1階床の事を指します。直感的な名前ではないですが、このように決まっています。ありがちな例として、ルーフバルコニーの床を「その他の床」や「外気に接する床」と思い違いしてしまうことがありますが、ここは下屋にあたるため「屋根」に分類されます。
(ちなみに「ルーフバルコニー」は屋根や下屋部分がバルコニーになっているものを指します。)
また、「土間」は「外皮」ではありますが、断熱性能は無視されます(土間面からの熱の出入りは考慮しなくて良いというルールです)。

断熱性能とは、建物の「内」と「外」でどの程度の熱の出入りを防げているか、ということです。したがって、どの部位を外皮(熱的境界)と判断するかはとても重要です。
側面は「壁」でほぼ間違いないですが、上面なら「屋根」か「天井」か、下面なら「その他の床」か「土間」か見極めなければなりません。
例えば、まれに天井にも屋根にも断熱材を入れている場合がありますが、「外皮」は必ずどちらか一方で、重複して計算はできません。この場合は天井裏が「内空間」か「外空間」かを意識すると判断しやすくなります。具体的には、小屋裏が外気に通じていれば屋根断熱、なければ天井断熱です。
なお、両方入れても全く効果がないということではなく、計算上はどちらか一方のみというルールです。

他の注意点として、

  • ルーフバルコニー部分は、熱的境界がバルコニー床ならば「屋根断熱」、下階の天井なら「天井断熱」です。
  • 上面全体が「天井断熱」の場合でも、母屋下がり部分のみ「屋根断熱」となる場合があります。
  • 下面の場合は、「床断熱」か「基礎断熱」の2拓です。「土間断熱」とは言わないのは、土間面ではなく周りの基礎立上りを断熱するからです。
  • 下面全体を「基礎断熱」とした場合、外壁下の基礎の立ち上がり(部位的には「壁」で、特に「基礎壁」と言われます)が熱的境界です。この場合、床下が外気に通じないよう、「気密パッキン」を基礎天端と土台の間に入れます。
  • 上面と同様、まれに基礎壁にも床にも断熱材を入れている例がありますが、下面は必ず「床断熱」か「基礎断熱」のどちらか一方です。床下が外気と通じていれば床断熱、通じていなければ基礎断熱です。
  • 下面全体が「床断熱」の場合でも、一般的な住宅なら玄関土間とUB下土間の部分は「基礎断熱」となります。他に土間空間がある場合も、その部分は「基礎断熱」です。
  • いずれの場合も、図面の記載から判断します。第三者が見ても図面から判断できることが重要なので、これらの判別ができない図面には追記が必要です。

熱伝導率、熱抵抗、熱貫流率

断熱材の断熱性能は、「熱伝導率」と「厚さ」で決まります。
「熱伝導率」は材質がそれぞれ持っている物質としての性質で、熱の伝えやすさです。数値が低いほど熱が伝わりにくいことを意味します。

一方で、どんなに熱を伝えやすい材質でも、厚ければ厚いほど熱が伝わりにくくなるのは感覚的に分かると思います。この「熱伝導率」と「厚さ」の両方を加味したものが「熱抵抗」と「熱貫流率」です。字のごとく、前者は熱の「伝わりにくさ」、後者は「伝わりやすさ」を意味し、お互い逆の視点から見た数値です。実際、相互に「逆数」の関係にあります。

熱抵抗(R値):厚さ÷熱伝導率 (数値が高いほど断熱性能が高い)
熱貫流率(U値):熱伝導率÷厚さ (数値が低いほど断熱性能が高い)

両者は計算時の利便性に応じて使い分けられます。仕様基準の断熱基準は熱抵抗値で定められていますが、これは断熱材を重ねた場合、熱抵抗は単純に足し算ができるという利点があるためです。
熱抵抗は外皮の標準計算でも頻繁に出てくるので、覚えておいて損はないでしょう。

断熱工法、熱橋

断熱材の入れ方には、大まかに「充填断熱」と「外張り断熱」があります。

充填断熱は、柱や梁の間に断熱材を入れる工法です。断熱材は柱や梁で分断され、連続して入れられません。この場合、断熱材の入っている部分を「断熱部」、柱や梁の木材部分を「熱橋部」といいます。断熱部に比べて熱橋部は断熱性能が低くなりますので、文字通り熱を橋渡し(ヒートブリッジ)してしまいます。

充填断熱

外張り断熱は、躯体の外側を断熱材で覆う工法です。一般的に、外壁下地合板や屋根野地板の外側に、ポリスチレンフォームなどの整形品を重ねます。充填断熱と違い、基本的に熱橋部がありません。

外張り断熱

どちらを採用するかは、コストやおさまりの問題・結露の出にくさなど、様々な要因で工務店様が判断していると思いますが、一般邸には充填断熱が多いようです。

充填断熱と外張り断熱は併用できます。併用した場合、特に外張り断熱を「付加断熱」と呼ぶことがあります。
建物にもよりますが、断熱等級6・7や、HEAT20のG2・G3など、高い断熱性能を目指す場合は併用が必要になることがあります。